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(内因性の光学信号)
色素で染める欠点を避けるため、脳が本来持っている内因性の信号を利用することができます。脳活動はエネルギー消費を伴うので、消費を補うためにミトコンドリアで酸素を使ってエネルギーを産生します。このとき酸素が消費されて酸素濃度が低下します。そこで毛細血管内のヘモグロビンが酸素を遊離し、真っ赤な動脈血の色調から黒ずんだ静脈血の色調へと変化します。この色の変化を光学的に記録するのです。しかし信号の変化幅は小さく、脳血流の影響を受けやすいという欠点があります。
(フラビン蛋白蛍光イメージングの原理)
脳活動を反映するもう一つの内因性信号として自家蛍光があります。脳が興奮し、ミトコンドリアの酸素代謝が亢進すると、電子(水素)伝達系のフラビン蛋白が酸化型になります。酸化型のフラビン蛋白は青い照射光の下で緑色の自家蛍光を発します。従って緑色自家蛍光をとらえれば、脳活動を可視化することができます(図1)。我々はこの原理を用いた脳機能イメージングを行っています。フラビン蛋白蛍光信号は、ヘモグロビン由来の信号より10倍程強く、またより速い変化を示します。

図1 フラビン蛋白蛍光イメージングの原理。A:フラビン蛋白は電子(水素)伝達系の一要素であり、酸化型が緑色自家蛍光を発する。B:神経細胞の興奮は、細胞内カルシウムの濃度上昇を介してミトコンドリアの代謝活性を高め、緑色のフラビン蛋白蛍光強度を上昇させる。
(フラビン蛋白蛍光イメージングの実例: 電気刺激の効果)
実例を我々のデータで示します。まずラットを麻酔し、大脳皮質を露出します。タングステン電極を体性感覚野と呼ばれる部位に刺入し、電気刺激を加えると、刺入された局所の蛍光強度が上昇します(図2、動画1)。

図2 電気刺激によって起こした脳のフラビン蛋白蛍光の上昇。A:ラット体性感覚野の自家蛍光像。樹状のイメージは脳表の血管像。タングステン針(各イメージの左から中心部への直線状の影)を脳に刺入し、時間ゼロから1秒間100ヘルツで刺激したときの蛍光上昇が見える。B:電気刺激の頻度を変えたときの蛍光変化を定量的に表示。
動画1(電気刺激の効果、図2Aのデータ、刺激のタイミングをブザー音で表示)
へのリンク
(フラビン蛋白蛍光イメージングの実例: 皮膚刺激の効果)
体性感覚野は皮膚感覚を処理する部位にあたるので、前肢や後肢に機械的刺激を与えると、それぞれに対応する体性感覚野の蛍光が上昇します(図3、動画2と3)。同様に音刺激に対する聴覚野の、視覚刺激に対する視覚野の反応も記録することが出来ます。我々の方法は安定して脳活動を記録することが出来るので、学習や経験依存的に脳活動が変化する様子をとらえることができます。

図3 皮膚の振動刺激(50ヘルツ、1秒)によって起こした体性感覚野のフラビン蛋白蛍光反応。A:前肢を刺激。刺激後0.3秒で明確な反応が出現し、0.8秒でピークに達する。刺激終了後、血流増加を反映する動脈像が出現。刺激前の蛍光強度を100%として変化分を疑似カラー表示。B:Aと同様の単一試行のデータ。C:後肢刺激による蛍光反応。前肢と異なる部位に反応が出現。
動画2(前肢刺激の効果、図3Aのデータ、刺激のタイミングをブザー音で表示)へのリンク
動画3(後肢刺激の効果、図3Cのデータ、刺激のタイミングをブザー音で表示)
へのリンク
(経頭蓋フラビン蛋白蛍光イメージング)
最近の脳科学ではマウスが重要な実験動物になっています。何故ならマウスには様々な遺伝子操作を施すことができるからです。しかしマウスの脳は小さくデリケートであり、高次機能を調べるのは容易ではありません。我々はマウス大脳活動を解析するためにフラビン蛋白蛍光イメージングが最適であることを見いだしました。何故ならマウスの頭蓋骨は透明度が高く、麻酔したマウスの頭皮を切開するだけで、頭蓋骨を介して大脳皮質のかなりの部分が観察できるからです(図4)。この方法を用いれば、学生実習並の易しさ(!)で脳機能イメージングが可能となります。現在この方法を用い、聴覚野・体性感覚野・視覚野の様々な性質がわかってきました(論文リスト参照)。私たちの研究室の最も経験の少ないメンバー達も、様々な発見をしています(Q&A参照)。

図5 マウスを麻酔し、頭皮を切開したところ。大脳皮質の背側面(体性感覚野、聴覚野の一部、視覚野)が頭蓋骨を介して見える。
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(脳切片を用いた実験)
大脳聴覚野ってどんなことをしているか知っていますか?実はこんな基本的なこともよく分からないのです。私たちは音を構成するそれぞれの要素の順番を大脳聴覚野が検出し、記憶するのではないかと考えています。例えばイヌ(inu)とウニ(uni)の違いは簡単に聞き分けられますが、そのためには脳のどこかで(i)、(n)、(u)という順番をちゃんと検出し、保持することが必要です。これを大脳聴覚野が行っているのではないかというわけです。その証拠として例えば大脳聴覚野の切片を作り、白質上の二点(A、B)を1−10秒の時間差をつけて100Hz、30発で刺激します。そうするとA点刺激とB点刺激に対してそれぞれシナプス増強が起きます。神経細胞のカルシウム濃度上昇を可視化すると、A点刺激に対するシナプス増強の起きる範囲とB点刺激に対するシナプス増強の範囲をイメージとして捉えることが出来ます(図5)。ここでA、Bの両方に対するシナプス増強が重なる場所では先行して刺激した方(A)だけにシナプス増強が起きていることが判ります。このようにして先に刺激した方だけにシナプス増強が起きるという形で刺激の順番が検出され、聴覚野の神経回路の中に保持されます。このような刺激の順序を反映した現象は大脳視覚野などでは起こりません。

図5 ラット聴覚野切片標本におけるシナプス増強の範囲をカルシウムイメージングを用いて可視化。異なる2点A、Bの刺激に対してシナプス増強が起きる範囲は重なるが、重なる部分では先に刺激した方(A)に対してのみシナプス増強が生ずる。従ってこの図のシナプス増強の分布を見れば、A点とB点のうち、A点が先に刺激されたと判断できる。
(行動解析)
上の実験から仮説として浮かび上がってくるのは、聴覚野は音の順番をシナプス増強の重なり具合で判断するという考えです。しかしこの仮説をどのように証明したら良いのでしょうか?一つのやり方はラットの音の順番を区別する能力を行動学的に測定し(動画4)、聴覚野のシナプス増強の性質と比較してみることです。このような解析から判ったことは脳切片のシナプス増強も、ラットの音の順番を区別する能力も、共にアセチルコリンという物質に深く依存するということです。このような共通点の存在は、我々の仮説の正しさを意味すると思っています。
動画4(赤外線ビデオカメラで撮った行動実験の様子、音声 をONにして見て下さい)へのリンク
動画4 ラットの音の順番を区別する能力を示す行動実験。低音−高音の順番の音の提示(S+)と高音−低音の順番の音の提示(S−)をランダムに行い、S+を提示しているときに給水器(画面左下)をなめると、報酬のサッカリン水が出る設定にしておく。このような訓練を続けるとラットはS+を提示した時に給水器をなめるが(1番目と3番目の試行)、S−の提示を無視するようになる(2番目の試行)。