ホーム > 分野紹介 > アルツハイマー病について > 5)リスク遺伝子 5)リスク遺伝子Webサイト「ALZgene」では、今までに報告されたリスク遺伝子を染色体ごとに公開している(2007年1月、このデータベースに登録されているリスク遺伝子のメタ解析を行った研究成果が報告された)。2007年1月時点で(2007年1月24日アップデート版)、397のリスク遺伝子が登録されていた(表1)。これらの中で、APOE-ε4アリルは最強の遺伝的リスクとして人種を越えて確証されている。しかし、APOE-ε4アリルを持たない人もアルツハイマー病を発症することから(図8)、APOE以外のリスク遺伝子探索が世界的規模で精力的に展開されている。 当部門では、今までに、APOEが位置している染色体19番と、孤発性の晩期発症型アルツハイマー病の候補染色体として有力な染色体10番を集中的に解析した。 染色体19番の解析では、APOE周辺の一塩基多型(SNP)を網羅的にタイピングし、詳細な連鎖不平衡地図を作成した。Yuら(2007)は、染色体19番APOE周辺の50 SNPsを用いて、白人(550人)における連鎖不平衡パターンを解析し、最近報告した。
染色体10番の解析では、APOE-ε4アリルを持たない孤発性晩期発症型アルツハイマー病と有意に相関する新規のリスク遺伝子「ダイナミン結合タンパク遺伝子(DNMBP)」を見出した。DNMBPの遺伝子発現は、対照検体と比べアルツハイマー病検体で有意に低下していた。DNMBPはプレシナプスに局在し、シナプス小胞のリサイクリングに関与する分子である(図9)。アルツハイマー病初期の認知機能低下は、神経細胞の消失ではなく、むしろAβの細胞毒性によるシナプスの機能不全が原因であるとされる。従って、DNMBPの発現低下は、シナプスの機能不全を招き、アルツハイマー病初期の認知機能障害の原因となっている可能性が示唆される。 つい最近、アメリカ白人において、DNMBPがLOADと相関するかどうかの追試が行われ、その結果が報告された。残念ながら、アメリカ白人では有意な相関を示さなかった。再現性が得られなかった理由として、人種の違いが大いに関係すると推定される。 現在、高密度SNPタイピングによるゲノム網羅的な解析を展開している。 図8)APOE遺伝子型 2000年から2005年にかけて、JGSCADで収集された孤発性の晩期発症型アルツハイマー病(LOAD)1526例と対照(Control)1666例のAPOE遺伝子型分布を示す(年齢は60歳以上)。LOAD1526例の約半分はAPOE-ε3*3である。これら計3192例のゲノムDNAを用いて、候補染色体10番長腕(60〜107 Mb [NCBI build35.1])を1330 SNPsで解析し、新規のリスク遺伝子DNMBPを同定した。なお、解析に用いたゲノムは全て新潟大学倫理審査委員会の承認を得ている。 図9)DNMBPのタンパク構造、局在、推定される機能 DNMBPはN末端のSH3ドメインを介して、DynaminIと選択的に結合する。一方、C末端のSH3ドメインにはアクチン調節タンパク(N-WASP、CR16、WAVE1、WIRE、PIR121、NAP1、Ena/VASP)が結合する。DNMBPはプレシナプスに存在し、Dynamin-1やAmphiphysin-1と共局在することから、シナプス小胞のリサイクリングに関与すると推定される。 表1)アルツハイマー病のリスク遺伝子 Webサイト「AlzGene」(2006年1月24日アップデート版)に登録されているリスク遺伝子数は、2007年1月25日の時点で397であった(否定的な遺伝子も含む)。アルツハイマー病最強のリスク遺伝子APOEは青色の下線付き太字で表している。家族性の若年発症型アルツハイマー病の原因遺伝子であるAPP(染色体21番)、PSEN1(染色体14番)、PSEN2(染色体1番)、MAPT(染色体17番)は、リスク遺伝子としても解析されている(下線付き太字)。我々が同定した染色体10番長腕のリスク遺伝子DNMBPは赤色の下線付き太字で示してある。
※参考文献
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