3)病理(老人斑、神経原繊維変化)
大脳皮質における神経細胞の著しい脱落に加え、老人斑と神経原線維変化の沈着を特徴とする(図6.7)。老人斑は神経細胞毒性の強いAβタンパク(主にAβ42)が神経細胞外に沈着したものであり、神経原線維変化はリン酸化されたtauタンパクが神経細胞内に蓄積したものである。アルツハイマー病の病因は依然として不明であるが、Aβの蓄積を病気の本体とする「Aβ仮説」が有力視されている。最近では、アルツハイマー病はシナプスの機能不全によって引き起こされるとの知見から、「Aβ仮説」を拡張した「シナプスAβ仮説」が提唱され、注目されている。
図6)老人斑と神経原線維変化の病理組織像
A. 老人斑(抗アミロイドベータ抗体による免疫組織化学染色像)/側頭葉皮質(60歳女性)
B. 神経原線維変化(Gallyas-Braak染色像)/海馬CA1領域(60歳女性)
C. 老人斑と神経原線維変化(Bodian染色像)/海馬CA1領域(73歳女性)
柿田明美博士と譚春鳳博士のご好意により提供していただいた(共に新潟大学脳研究所附属生命科学リソース研究センター脳疾患標本解析学分野所属)。 |
図7)老人斑の電子顕微鏡像
A. 低倍率像
イガ栗のようなアミロイド塊の周囲に、変性した神経突起の断面が多数見られる。
アミロイド塊の中心から、細いアミロイド線維束が放射状に伸び、変性した神経突起の間に浸潤している。
B. 高倍率像その1
アミロイドの塊は、アミロイドの線維の束が寄り集まってできた細胞外構造物である。
図の左上には、変性した神経突起の一部が見られる。
C. 高倍率像その2
アミロイド線維束の間には、変性した神経突起と星膠細胞の突起が見られる。
柿田明美博士と譚春鳳博士のご好意により提供していただいた(共に新潟大学脳研究所附属生命科学リソース研究センター脳疾患標本解析学分野所属)。 |
※参考文献
- Hardy J, Selkoe DJ. The amyloid hypothesis of Alzheimer's disease: progress and problems on the road to therapeutics. Science. 297:353-356. (2002)
- Selkoe DJ. Alzheimer's disease is a synaptic failure. Science. 298:789-791. (2002)
- Tanzi RE. The synaptic Abeta hypothesis of Alzheimer disease. Nat Neurosci. 8:977-979. (2005)