2012年09月13日

イベント

第42回夏期セミナーを終えて

8月2−8日にかけて第42回新潟神経学夏期セミナーが開催されました。今年はインターハイや新潟祭りと日程がかさなってしまい、参加者の皆様にはご不便をおかけしました。お詫び申し上げます。そのため日程もやや変則となりましたが、コース、セミナーとも成功裏に開催することができました。有り難うございました。見学体験コースでは「フラビン蛍光イメージング実習(8/6−8)に8名、「遺伝子改変マウス作製の実際」(8/2−3)に4名、「神経細胞の培養と遺伝子導入」(8/3)に6名の参加者がありました。いずれの参加者も、自分の研究に実際にこれらの技術を導入しようという大学院生や若手研究者で意欲と熱気を感じました。今後の共同研究を含め、それぞれの研究の発展が期待されます。また脳研レジデント(臨床)コース(8/3)には13名の参加がありました。プログラムの内容としては、基礎研究部門見学、神経内科学講義、脳外科手術見学、統合脳機能研究センター見学、臨床病理検討会に加え、今年度から神経病理学実習が行われました。今年はレジデント以外にも門戸を広げ、広く「ヒトの脳の疾患」に関与している方々に参加いただきました。レジデントとして脳研に来て頂ければなによりですが、それ以外でも幅広くこの体験を活かして頂ければ幸いです。

セミナーの方は169人の参加者となりました。1日目(8/4)が脳は変化する-発生から可塑性まで-」というタイトルで神経発生から脳の発達、さらには成体脳での可塑性まで、神経細胞や脳がどのように形成されどのように変容するのかというテーマで講演をして頂きました。東大分生研の後藤由季子先生は「脳の発生における神経幹細胞の運命決定」というタイトルで、神経幹細胞の幹細胞としての機能維持や神経細胞への分化の分子基盤を、膨大なデータで非常にクリアーに解明されていて圧巻でした。本学医学部解剖の竹林浩秀先生は「胎児期脳発生と生後脳発達について」というタイトルでご自身らが同定した脳発生に重要な転写因子oligの機能を中心に、(着任間もないこともあり)現在の研究の紹介をされました。脳の発生に関して非常にわかりやすく丁寧に解説して頂きました。次の2題は脳研の若手研究者から分子神経疾患資源解析学分野の加藤泰介先生とシステム脳生理学分野の任海学先生による発表でした。加藤先生は「サイトカインと神経発達障害」というタイトルで新生児期のニューレグリン刺激が脳の発達に及ぼす影響を示し、統合失調症の動物モデルとしての可能性について、データに基づき緊張しつつも丁寧に説明しました。任海先生は「高次視覚野の機能獲得機構」というタイトルで視覚野の成り立ちや再編について、データのみならずさまざまな視点から「夢」を語ってくれました。最後の伊佐正先生(生理研)は「脳・脊髄損傷後の機能代償戦略 」というタイトルで、手/指の運動調節経路という古くからの課題をウイルスベクターを駆使した最新の手法で明らかにするという見事なお話をされました。脊髄損傷後の可塑性という臨床にも役立つ研究をサルを用いて示していて、感銘をうけました。

セミナーコースの最後は脳研の主に大学院生による5分のショートトークとポスターの掲示でした。脳研の研究紹介と共に、最近の学会は若手のオーラルの機会が少なくなっているので、トレーニングも兼ねています。プレゼンテーションともちろん内容を審査して、「中田瑞穂記念若手研究奨励賞」が贈呈されます。今年はシステム脳生理学分野の渡辺達範君(しびれの体性感覚野応答)、動物資源開発研究分野の小田佳奈子さん(初期胚の体外培養がマウスの個体発生に及ぼす影響)、神経内科分野の池田哲彦君(低血糖脳症におけるグルコース再灌流障害による神経細胞障害―新規神経保護薬の検討―)の3名が受賞されました。おめでとうございます。

セミナーの2日目は「睡眠•リズム障害と神経疾患」というテーマで、近年急速に分子機構が明らかにされ生物時計の基礎的解説から、睡眠障害の臨床まで、誰もが知る「睡眠」という身近な問題を取り上げました。まず京都大学薬学部の岡村 均先生は「脳の時計とその異常」と題して、生体リズムの分子機構から始まり、発がん、代謝疾患、高血圧、睡眠障害といったさまざまな疾患に及ぼす影響に至るまで莫大な研究データをもとに分かりやすく解説してくださいました。この領域の飛躍的な進歩を実感する素晴らしいご講演でした。本学医学部第二内科の中山秀章先生は「睡眠時無呼吸と呼吸中枢」と題して、呼吸中枢は呼吸の安定性のみならず上気道の開大にも関与し呼吸を調節していることを基礎および臨床の両面から解説されました。獨協医大医学部神経内科の宮本雅之先生は、「脳梗塞と睡眠・覚醒異常」と題して、脳梗塞後には大別して、概日リズム異常、過眠症、睡眠呼吸障害が起こることを豊富な経験例を交え紹介してくださいました。日々の臨床に役立つ内容でした。秋田大学医学部精神科の神林 崇先生は「中枢神経疾患におけるオレキシン値の検討」と題して、オレキシン系とセロトニン系から始まり、原発性および症候性ナルコレプシーの病態と治療、さらには近年話題になっている抗NMDA受容体脳炎に至るまで幅広い内容を分かりやすく解説してくださいました。最後に脳研神経内科の下畑享良先生が、2001年から神経内科が複数の診療科と協力して継続している多系統萎縮症に対する「新潟MSA study」が明らかにしたものを解説してくださいました。

講師の先生方をはじめ、参加いただいた方々に改めて感謝申し上げます。

来年度も魅力的なテーマを企画中です。是非ご参加ください!

文責: 武井

第42回夏期セミナー
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