2013年04月09日

イベント

スプリング・サイエンスキャンプ、脳週間を終えて

世話人: 細胞神経生物学分野 﨑村建司

世界脳週間に企画された「脳週間2013 見てみようヒトの脳と心」と、科学技術振興機構主催の「スプリング・サイエンスキャンプ2013」が、平成25年3月26〜28日に脳研究所において行われました。

「見てみようヒトの脳と心」では、新潟県内の高校生70名が脳研究所を訪れました。前半は数グループに分かれ、日頃は見ることのできない研究施設を見学し、使用している実験機器類や実験サンプル、本物の病理検体などを前に解説を受けることで、短い時間ではありましたが脳研究の一端を体感してもらうことができました。後半は、本研究所の桑野教授、横山教授による脳の機能、病気、研究手法についての講義を聴くことで、教科書などでは得られない「脳」についての知識をより深めることができたと思います。

「サイエンスキャンプ」では、全国の多数の応募者から選抜された8名の高校生が様々な体験をしました。各分野で行われている研究手法を実際に体験することで、脳科学というものがいかに複雑で多岐にわたる研究領域と融合したエキサイティングな研究分野であるかを理解してもらえたと思います。この先進学、就職などの人生の転機を迎えた時にサイエンスキャンプでの経験を思い出してもらうことで、将来、脳研究に参加する仲間が一人でも増えることを心から期待しています。

サイエンスキャンプと脳週間で研究紹介と実習を行った各分野の先生からコメントを頂いたので、紹介致します。

・細胞神経生物学分野(脳週間)

脳研究所の見学に訪れた新潟市内の10名の高校生に研究内容を説明しました。当研究室では遺伝子改変マウスの作製と解析を主な研究手法として用いていますが、具体的な技術や研究結果についての説明は省き、研究の最終目的である脳機能の解明のために「なぜ」このような実験動物が必須であるかということを主なテーマとして説明しました。後から全員が高校一年生であったことを知り、少々難しい話をしてしまったかなと反省していますが、そのような内容でも真剣に説明を聞いている姿が印象に残っています。その後、約1時間で蛍光染色脳切片の観察、脳タンパク質の検出と定量方法の説明、発生工学に用いる生殖細胞や胚性幹細胞の観察などを行いました。始めて見る実験ばかりで、それぞれの関連性が完全には理解できなかったようですが、一方で、脳研究には多様な実験手法を用いる必要があるということを実感できたのではないでしょうか。今回の体験が少しでも彼らの将来の糧になることを願っています。

・分子神経生物学分野(脳週間、サイエンスキャンプ)

脳週間では「神経細胞を育ててみる」と題し、初代培養の方法や特徴などを講義しました。神経突起が伸びてゆく過程を撮った動画に関心が集まっていました。Seeing is believing!

サイエンスキャンプではラットの神経細胞の初代培養の実習を行いました。実際に顕微鏡下で解剖を行い、脳以外の臓器(心臓など)も解剖してとても興味を持ったようです。またGFPの遺伝子導入を行い、翌日に実際に光っている神経細胞を見て興奮していました。さらに数日おいて突起の伸びた神経細胞の写真を後日メールで送りました。やはり高校生も光モノ好き?

・システム脳生理学分野(サイエンスキャンプ)

システム脳生理学分野に来たのは4名の高校生。まずは、当研究室が得意とする神経活動の計測法・フラビンイメージングの原理について簡単に解説した。その後、2つの実験を見学してもらった。フラビンイメージングの実験では、音・光・皮膚通電という感覚刺激をマウスに与えるとそれに対応して大脳皮質の聴覚野・視覚野・体性感覚野が反応するという基本的な実験結果や、音の高低・視野の位置・皮膚の部位に対応して応答する領域が微妙に異なるというトポグラフィカルな地図再現を示した。一部の実験に失敗し、前日の予備実験での結果を見せることになったが、「実験はいつもうまくいくとは限りません」と真面目顔で説明すると、みなさん「ナルホドそういうものなのか」という得心顔をされて、期せずして研究の泥臭さを垣間見せることができた。見学してもらったもうひとつの実験は、Prusky Mazeを使ってマウスの視力を計測する行動実験。水槽に浮かばせたマウスが、足の着く逃げ場を目指して泳ぐ様を見てもらった。その逃げ場の位置は縞パターンという視標の位置と同じにしてあり、その関係を憶えているマウスは逃げ場を目指して懸命に泳ぐが、まだ覚えていないマウスではでたらめに泳いでしま う。実際にその行動の違いを観察してもらい、学習の有無に応じてマウスが異なる行動パターンを取ることを実感してもらえた。最後に、当研究室の最新の研究成果を見てもらった。かなり難しい内容ではあったが、研究のバリバリ最前線の雰囲気を感じてもらえたと思っている。サイエンスキャンプに参加するような積極的な学生だけあって、みなさん元気で才気あふれており、案内する教員も学生とのやり取りを楽しく感じた。多くの質問が発せられたが、中にはとても鋭い視点を有しており、感心させられてしまうことが何度もあった。学生たちの未来に大いに期待したい。

・統合脳機能研究センター(脳週間、サイエンスキャンプ)

サイエンスキャンプには男女2名ずつの4名の高校生が参加。脳波・事象関連電位(2時間)と機能的MRI(1.5時間)についての、講義と実習を行った。

脳波・事象関連電位の講義・実習では、最初から「脳波の基準電極はどこに設置するのですか?」などの的を射た質問が相次いだ。実習では、大学生被験者に対して、高校生参加者が電極の設置を自ら行い、アルファ波等の生の脳波を観察した。普段から同じ内容の実習を大学生にしているが、サイエンスキャンプの高校生の方が、手技が上手で驚いた。脳波以外にも、筋電図や眼電図などの様々な生体電気活動を目の当たりにし、歓声が上がった。最後に、オドボール課題を用いた実験を行い、被験者に課せられた課題によって聴覚事象関連電位が大きく変化することを観察した。

機能的MRIの講義・実習は、まず当センターの特色やMRI全般、機能的MRIについて解説した後、見学時の安全確保の心構えについて説明した。機能的MRI実験の実演では、まず、右手の運動で左半球の運動野が賦活することを確認した後、参加高校生の発案による実験を即興で行った。毎年斬新なアイディアに面食らうこの企画だが、今年最初に出た案は「耳を動かしたときの脳活動を見たい」であった。笑いを堪えながら中の被験者さんに相談すると、「耳は動かせない」とのことで、実験は不成立。次に出た案が、「アルファ波の賦活が見たい。」この実験の施行には、脳波-fMRIの同時記録や特殊な解析が必要で、今回の簡易実験では結果はうまく出なかった。しかし、先ほど見たばかりの事をすぐに消化して実験案に結び付けるのは、さすがである。初日は脳週間イベントの参加者(県内高校生7名と引率の先生方)も加わり、MRI棟内が若さに溢れキラキラしていた。

真剣な眼差しと活発な質問から、実習を楽しんでくれたことが我々にも実感できた。このような好奇心に溢れた高校生が、多く育ってほしいと願う。

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