2013年08月05日

イベント

第43回夏期セミナーを終えて

1日目(7月26日)のセミナーは、「最先端で解き明かす脳機能」というタイトルで、脳機能の基盤である神経回路を先端的な手法を使って研究するというテーマで講演して頂きました。一口に神経回路といってもいろいろな見方があり、マクロレベル・細胞レベル・分子レベルという異なった空間スケールから見た神経回路、あるいは発達という時間軸を意識した神経回路などと、研究者ごとに異なる切り口を楽しめる講演でした。セミナーの参加者は153名にのぼり、活発な質疑応答が繰り広げられました。

前半は脳研究所より2名の先生、後半は外部より3名の先生にご講演頂きました。

まずトップは、脳研・統合脳機能研究センター・生体磁気共鳴学分野の五十嵐博中先生でした。「脳代謝と神経回路のMR」というタイトルで、マウスなど小動物の視覚経路をfMRIやMR tractographyで画像化するという研究を発表して頂き、賦活した視覚性皮質と上丘が1枚に収められた画像などを紹介してくださいました。MRIの基礎もやさしく教えていただき、大変勉強になりました。

次は、脳研・システム脳生理学分野の塚野浩明先生。「大脳聴覚野の機能イメージング」というタイトルで、ミッシング・ファンダメンタルという興味深い聴覚現象のメカニズムに関する研究と、マウスの加齢性難聴を解析した研究を発表して頂きました。ふだん使っている系統のマウスが、中枢性の難聴を持つことを明確に示したデータには驚かされました。

国立遺伝学研究所の岩里琢治先生には、「新生仔大脳皮質における神経回路発達」というタイトルでご講演頂きました。マウス・バレル野の発達過程において、錐体細胞の樹状突起が各バレルの内向きに伸張する過程を解析する研究でした。生後間もないマウスでのin vivo2光子イメージングという難易度高い実験にもかかわらず、single cell KOなどの手法を駆使して、1つ1つ突き詰めて解析!という姿勢に感銘を受けました。

昼食後1番のご講演は、基礎生物学研究所の松崎政紀先生による「大脳運動野2光子イメージング」でした。運動課題を学習させたマウスの運動野を2光子顕微鏡でイメージングするという手法を用いて、課題遂行中の運動野ニューロンの活動を解析するという研究を発表されました。研究背景を説明するイントロに魅せられ、発火するニューロン群の解析に頷かされ、そして今後の予想される展開にワクワクさせられたお話でした。

最後は、慶応大学医学部の柚崎通介先生に締めていただきました。「補体C1qファミリーのシナプス機能」というタイトルで、Cbln1という分子を中心にお話されました。この分子が、単に補(おぎな)う存在ではなく、シナプス形成においてまさに中心的な役割を持つ分子であることがよく分かりました。学者らしい物静かな雰囲気の先生が、膨大なデータを精緻に組み立ててお話され、とても印象的な発表でした。

文責: 菱田

このページの先頭へ戻る