統合失調症の脳内遺伝子発現プロファイル


<前書き>

  統合失調症(精神分裂病)は、人口の約0.8%が青年期に発症する難病で決定的な治療薬は今だなく、その病歴も長期にわたるため社会的損失は計り知れない病気である。これまでの研究で、その発症リスクを規定する因子として家系遺伝が挙げられていたが、現在ではそれに加え、出生地域、季節などの生活環境因子もかなり重要視されるようになった(文献1)。いずれの危険因子の実態もまだ不明であるものの、近年の脳活動の画像化技術により、脳のなかでも特に前頭葉ー辺縁系の機能異常が注目されている(文献2)。
 最も大きな問題点は、これまでの統合失調症の診断学が、診断医師の主観にかなり影響されていて、最新の診断基準DSMIVでも妄想型、解体型、緊張型、鑑別不能型といった心理症候学でのみ規定され(文献3)、決して絶対的指標による科学的なものではなかった。ゆえに、統合失調症の診断は、医師によりまちまちで、結果その治療法も客観的基準が曖昧であった。 同様に、統合失調症の治療を目指す治療薬を開発する過程においても、ヒトや動物におけるドパミンの代謝活性を除いては、生物学的な指標は極めて限られていた。元来、新薬開発において実験動物への薬理作用が重視されるが、統合失調症が実験動物おいて再現されうるかどうかも、適切な統合失調症の指標分子が発見されていなかったため、困難であった。統合失調症の原因遺伝子の染色体マッピング、及びその同定が現在盛んに繰り広げられている。いくつかの候補遺伝子領域は報告されているが、確定的なものではなく研究者によってその結論は分かれる(文献4)。
 このような状況のもとに、感度の高い放射活性を利用したDNAアレイを利用して、統合失調症の脳3領域における病態遺伝子プロファイルを取得し、約2−3000個の主要な既知遺伝子mRNAの発現変化率とその個人差を解析したので、ここにデーターベースとして公表する。これら遺伝子変動情報(分子プロファイル)を公開することにより、当該領域での各病態の分子レベルでの理解や診断に役立ち、当該精神疾患のゲノム多型解析(SNP)の標的遺伝子に関する情報も与えることを期待したい。

- 参考文献 -
文献1;Weinbergeer RD et al., Arch Gen Psychatry 44: 660-669, 1987.
文献2;Mortensen PB et al. N Engl J Med 340: 603-608, 1999.
文献3;DSM-IV 精神疾患の分類と診断の手引、医学書院、1995
文献4;Pulver AE et al., Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 61: 797-814, 1996.

- 謝辞 -
ここに紹介した研究は、多くの患者さんやその御家族の協力のもとに実施できたもので、ここに感謝の意を表したい。また、実際の研究は、神戸大学精神医学教室、国立療養所犀潟病院、東京都松沢病院、大島病院、新潟大学脳研究所病理学分野、同リソースセンター、新潟大学医学部精神科との共同研究の成果であることを付け加えさせていただく。なお、この一連の研究の成果は、次の研究費の支援により実施された。
1) 科学研究補助金;特定研究C・ゲノム医科学(平成12−16年度)
     代表「精神疾患の遺伝子発現データベースの構築と分子病態解析」
2) 科学技術振興事業団;権利化試験研究課題(平成12−13年度)
     代表「統合失調症の臨床診断薬の開発;遺伝子プロファイリングによる分子病態解析の応用」
3) 科学振興調整費;目標達成型脳科学研究(平成12-16年度)
     分担「依存性薬物の神経栄養因子・サイトカイン動態への影響とその生理作用


<使用方法>

  クローンテック社のDNAマクロアレイ、3種を使って、既知遺伝子2−3000に対するRNAプロファイリングを患者群(6例)と非精神疾患群(6例)で比較検討している。

各遺伝子(index;DNAマクロアレイの登録番地)のmRNAシグナル強度は、統合失調症群(Schizophrenia;S)と非精神疾患者群(Control; C)での平均値(AVE)と標準偏差(SD)と分散率(SD%)でしめしてある。群間での平均値の差の統計有意差検定(Student t-test)の結果の有意確率(t-test)を示す。有意な遺伝子には色つけてある。遺伝子名(Gene Name)、データーベースGeneBankでの登録番号(GB#), 遺伝子発現変化率(S/C)の結果を示す。

1)検討した脳部位は次の3部位
A1;前頭前野(46野)
A2;線条体
A3;帯状回

2)テーブルは5種類の方法で、各組織で情報をソーテイングしてある。
−1;mRNAレベル平均値の変化率(昇順)
−2;mRNAレベル平均値の変化率(降順)
−3;平均値の差の統計有意差検定(Student t-test; t-検定)の確率
−4;遺伝子の機能タグ名順ABC(タグ名リスト;下記参照)
−5;遺伝子名ABC順

[ 機能タグ名リスト ]
GLI;グリアタンパク質
GFR;成長因子とその受容体
DNA;DNA合成、修復
ECP;細胞外情報伝達タンパク質
APO;アポトーシス関連タンパク質
STS;ストレス応答/ユビキチン//ヒートショック
DEV;細胞成長、発達関連タンパク質
CYC;細胞分裂関連タンパク質
CYR;サイトカインとその受容体
CSR;細胞表面受容体/細胞接着分
OTH;その他
KIN;キナーゼ
STD;シグナルトランスデューサー/Gタンパク
TRF;転写因子
TRS;トランスポーター/各種チャネル
NEU;神経細胞タンパク質
SKE;細胞骨格/運動関連タンパク質
HKG;ハウスキーピング遺伝子
NTR;神経伝達物質とその受容体
HOR;ホルモン、ペプチドとその受容体
PHO;フォスファターゼ


<内容>

  1.データベース
     <部位>
       A1.前頭前野(46野)
       A2.線条体
       A3.帯状回

  2.実験方法

  3.公表リスト



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